
森林浴を楽しみながら歩く奥津軽トレイル
目次
津軽文化を支えた青森ひばと森林鉄道
津軽半島の国道339号線を北へ向かうと、対岸に北海道が見えてきます。先端の竜飛岬の手前には、幕末の頃、吉田松陰が津軽海峡の北方警備の視察に訪れた際に通ったといわれる道「みちのく松陰道」と書いた看板が現れます。そこにクルマを止め、40分ほどひたすら歩く。すると、森の中に忽然と現れる津軽森林鉄道遺構。「ウッ」と息の飲む瞬間、同時にその出合いに感動が広がります。
藩政時代より青森の繁栄を支え、日本の近代化の礎となった「青森ひば」。日本の鉄道敷設をはじめとする近代化に、その耐久性、殺菌性から「青森ひば」は欠かせない木材でした。そこで、明治43年、「青森ひば」を山出しするために森林鉄道が敷設されたのです。津軽森林鉄道は日本初、日本最長を誇り、トラック輸送に取って代わる輸送手段として、昭和42年の廃線まで、津軽半島の山奥へ毛細血管のように張り巡らされていきます。奥津軽の近代化は木材景気によって支えられていたのです。

奥津軽を駆け抜けた森林鉄道 写真提供:奥津軽トレイル倶楽部
また奥津軽は、文豪・太宰治と津軽三味線芸能を育んだ土地でもあります。実は、これら文学・芸能を育む経済的礎を創り上げたのは、「青森ひば」の恵といっても過言ではないのです。太宰治の生家・旧津島家はその豪商の代表格。豪商の家に生まれた葛藤から、太宰文学は生まれていくのです。そしてその豪商たちは、津軽三味線奏者を庇護し、津軽三味線という芸能を育てていく。
このような文化・経済の礎となった、津軽の地域DNAともいえる『青森ひばと森林鉄道軌道跡』は、今まであまりクローズアップされてこなかった。地域住民の記憶には残っていたものの、青森ひば産業が斜陽を迎え、奥津軽の人々の生活から森林鉄道の勇姿が消え、忘れ去られていたのであります。

廃線後、約半世紀、まだその姿を残す青森ひばで作られた木橋跡
奥津軽トレイルの誕生
その記憶の糸を手繰りながら、一昨年の北海道新幹線開業に向けた新たな観光コンテンツ開発のプロジェクトの一つとして、「NPO法人かなぎ元気倶楽部」専務理事の伊藤一弘氏らとともに、私もこの奥津軽の山間をひらすら歩き続けました。約3年間調査を行い、日本三大美林「青森ひば林」と近代遺産「津軽森林鉄道軌道跡」が紡ぐ、『奥津軽トレイル』が誕生した。このトレイルルートを歩くと、当時の最先端の鉄道敷設技術と、技術者の並々ならぬ努力によって造られた木橋、鉄橋、トンネル跡、石垣、レール・枕木跡がひっそりと青森ひば林の中に佇んでいる姿に出会うことができるのです。

太宰治ゆかりの地コースには威風堂々とした鉄橋跡の姿
このロングトレイルは、現在、8セクション、全長117km。NPO法人日本ロングトレイル協会加盟も果たすことになった。奥津軽では、ひば伐採後に植林された杉林をもう一度青森ひば林に戻し、鉄道遺構は森林遺産として登録できないか、という次世代へ紡いでいく気運が盛り上がってきています。確実に地域の誇りとして育ってきていることを実感します。
青森ひばに癒される健康プログラムが誕生!
平均寿命が都道府県で男女とも最下位という、不名誉なレッテルを貼られている青森県。短命県返上!を掲げ、青森県がさまざまなプロジェクトを行っていますが、その取り組みのひとつとして、この奥津軽トレイルを活用した地域の健康増進のためのプログラムを造成しています。不健康の象徴ともいえる、あの「文豪・太宰治がココロもカラダも健やかになれるプログラムに!」という思いをこめて、「DAZAI健康トレイル」と名付けられ、展開されています。
実は、森林鉄道で使われた蒸気機関車は、青森ひば生産地まで上っていくため、その軌道は勾配の少ない渓流沿いに敷設されました。それがカラダへの負担が少なく、心地よくをウォーキングができる健康プログラムとしてはもってこいのトレッキングコースとなっているのです。奥津軽トレイルには、日本三大美林のひとつ、青森ひば林での森林浴を楽しみながら、ほどよく汗をかき、まさに健やかなる旅を満喫することができるコースがあります。峠越えを含むかなり難度の高いコースもあるが・・・。
DAZAI健康トレイルは、弘前大学をはじめとする県内の大学との連携により生まれました。はじめに、太宰治記念館『斜陽館』に集合し、健康チェックを行う。短命県返上!の旗振り役でもある、弘前大学大学院医学研究科特任教授・中路重之氏のありがたい「健康談義」に耳を傾け、森の中の太宰治のゆかりの地コースをガイドとともに巡ります。

まちづくりの拠点にもなっている太宰治記念館『斜陽館』

健康チェックをしてからトレッキングへ
森の中でゆっくりと寝転びならが空に向かってまっすぐに伸びる青森ひばを見上げたり、森林鉄道軌道跡の鉄橋遺構に出合ったり・・・。なんともここちよい時間が流れます。トレッキングで疲れた足を硫黄泉につける湯ノ沢冷泉では、ドイツの気候療法のひとつであるクナイプ療法を体験することができます。参加者の「気持ちいい~」がこだまする。

硫黄冷泉で冷刺激で血行促進
お昼には、太宰治の愛した郷土料理が並ぶ奥津軽トレイル弁当に舌鼓を。太宰の小説にも登場する「藤の滝」に癒され、圧巻の津軽森林鉄道遺構である鉄橋跡に時間を忘れる。そのほか、青森明の星短期大学のコミュニティ福祉専攻の先生らと考案した、トーンチャイムによる森の中での童謡ふるさとの演奏会などのアクティビティも。森の中で脳を使い、童謡をみんなで奏で、その音色に癒される…。まさに「青森ひばセラピー」の時間を存分に体験できるツアーといえます。

カロリー、栄養バランス、塩分に配慮したDAZAI健康トレイル弁当

青森ひば林でリフレッシュ!
冬の健康プログラムも魅力的!
大雪の話題が連日ニュースを騒がせていますが、今年は奥津軽も寒く、そしてその寒さや雪を活用したこの季節ならではの健康プログラムが展開されています。神木十二本ヤスに出合うスノーシュー体験です。外気の寒さにより、カラダは温まろうと熱を発するため代謝が高まります。また雪の中では脚を大きく上げて歩くため、運動強度も高くなり、脂肪も燃えやすくなります。ダイエット効果やメタボ・ロコモ対策にはもってこいのプログラムになっているのです。確かに寒さは堪えるが、清浄な冬の空気の中での無理のない運動は、ストレスも発散でき、健康効果が高まるはずです。観光客としてもその取り組みに参加できるので、ぜひ試してもらいたい。詳しくは「奥津軽トレイル倶楽部事務局」に問い合わせを。

清浄な空気の中を歩く冬のスノーシュー体験

冬の青森ひばの神木十二本ヤスに出合う
奥津軽の歴史・文化・自然、そして暮らしの物語が聞こえてくる。青森ひばの神木と出合い、四季折々に様々な顔を見せるブナの混合林に癒され、滝のマイナスイオンを浴びながら、森林鉄道遺産に心躍る。そんな時間でココロとカラダを健やかに、奥津軽でぜひ満喫していただきたい。
NPO法人かなぎ元気倶楽部所在地 青森けん五所川原市金木旭山189-3
アクセス JR五所川原駅よりタクシーで約30分
トレッキングの後にもお楽しみあり!温泉施設多数 – 奥津軽
トレッキングの後には、津軽平野の田園風景が広がる素朴な稲垣温泉や五所川原温泉へぜひ足を伸ばして。五所川原市内には、大型ホテルから和風旅館、共同浴場まで多数の温泉施設が充実。多くの温泉旅館で日帰り利用も可能です。塩化物泉中心の良質なお湯は、日本温泉百選に選ばれたところも。また稲垣温泉は現在宿は1軒のみですが、日本の原風景が残るスポットとして、温泉通の間で人気の高い温泉です。