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【連載】ご当地グルメ、忘れえぬ味「第5回 島根・益田市の『自動販売機うどん』」

【連載】ご当地グルメ、忘れえぬ味「第5回 島根・益田市の『自動販売機うどん』」

まさかの自販機で初旅メシ

自治体主催のプレスツアーなどにお招きいただくと、いろいろとご当地の美味しいものを食べさせていただきます。場所も地元の名店で、“けっこう値が張りそう”な料理が多い(ありがたい話です)。

そんな中で、いまだに忘れられないのが島根県の石見地方に案内していただいた時の旅メシ。この時は通常のプレスツアーと違い、“何かテレビ番組の企画になりそうなもの”を探すのが目的でした。ロケハン、いやそれ以前の”ネタ”ハンですかね。

なので、案内される側は私1人。案内してくれる側も地元関係者2人という小グループ。最初から「観光ガイドブックに載ってるような場所は案内しませんから〜」と言われてはいましたが、いやいやそれでも驚きました。だって空港から降りて最初に訪ねた場所が、町外れの国道沿いの自動販売コーナーだったのですから。

原液の麺の自販機が2台あります。

麺の自販機が2台。どちらも現役

その名も「自販機コーナーオアシス」。こちら、自販機マニアには有名な場所で、懐かしのうどんやラーメンの自動販売機が2台も現役で稼働中。

ああ、子供の時に親と泊まった温泉場の安ホテルにもあったなあ……と懐かしさがこみ上げて来ましたが、いきなり最初からコレって……正直戸惑ってしまいました。

でもここまで来たら食べるしかありません。2台のうち右の販売機は「肉うどん」と「そば」、左の販売機は「天ぷらうどん」と「ラーメン」です。それぞれ350円。特に理由もなく天ぷらうどんを選びました。

手書き風の文字が渋さをプラスしています。

ラーメン、天ぷらうどん、手書き風の文字も渋い!

小銭を入れてボタンを押すと、電光表示板(懐かしい!)の数字が光りました。“できあがりまで30秒”の数字がカウントダウンされていきます。

やがて自販機の中からガタンゴトンと大きな音が響いてきました。一体中では何が行われているのだろう? どんな仕組みで天ぷらうどんが調理されているのか? そしてどんなものが出てくるんだ? にわかに胸が踊りました。

狭い取り出し口が特徴的です。

ここまで狭くなくて!というくらい狭い取り出し口

30秒たちました。もちろん自動では出てきません。小さな取り出し口に手を突っ込み、ふにゃっとした感覚のプラスチック容器を取り出すと、意外にもそこからは熱々の湯気が! そして麺の上に乗っているのは立派なエビ天。街場のそば屋で出しても恥ずかしくないサイズ。逆の意味で裏切られました。

5分後でもまだまだ湯気がたっています。

出来てから5分くらいたってもまだ湯気がたってます

さっそくいただいてみましょう。まずはスープをズズッ……うまい。

しっかり出汁がきいています。肝心のうどんもコシがあって食べごたえあり。そして天ぷらの衣もサクサクです。すみません、自販機うどん、舐めてました。

後で調べたら、管理している方が毎日手作りの天ぷらを揚げ、売れ行きを見ながら少しずつ補充しているのだとか。顔は見えませんが作り手の愛情がヒシヒシと伝わってくる、立派なご当地グルメでした。

名称自販機コーナーオアシス
所在地島根県益田市安富町(国道9号沿い)

知る人ぞ知る島根ワサビ

とはいえちょっとマニアック過ぎるので、もう少しノーマルな島根グルメを紹介しますね。

皆さん、ワサビの産地といえばどこを思い出すでしょうか? 私はダントツで静岡県です。でも生産量だとトップは長野県。静岡は岩手県に継いで3位なんです。意外ですよね。首都圏に近いからでしょうか。

意外といえば、5位に島根県がランクインしているのも意外です。首都圏ではめったに見ることがありませんが、かつては「東の静岡、西の島根」と称されるほど島根県はワサビの産地として有名だったのだとか。

中でも有名なのは、益田市街地から車で50分ほどの山中にある匹見町。清流日本一の高津川の支流・匹見川沿いにあるため、ワサビ栽培に必要なきれいな水に恵まれており、天然の渓流を利用した、通称“ワサビ谷”で丁寧に時間をかけて栽培しているそう。ただし大雨になると流れてしまうなど過酷な環境にあるため出荷量が少なく、“幻のワサビ“と呼ばれています。

もちろん匹見以外にも島根県内にはワサビ産地があります。益田市と同じ石見地方である津和野町の「日原」(にちはら)という地区もそうです。

益田駅前の「新天街」という飲み屋街でたまたま入った居酒屋のご主人が、そこの出身でした。

益田駅前の新天街という飲み屋街の雑居ビルにあります。

益田駅前の新天街という飲み屋街の雑居ビルにある

ご主人いわく、「日原でも高津川の天然のワサビ谷でワサビを栽培していて、味は匹見のそれに勝るとも劣らない」。

こちらのお店では日原の生産者から直にワサビを仕入れています。

奥がご主人の大庭英樹さんです。

奥がご主人の大庭英樹さん

ただ、当日はタイミング悪く、生ワサビは入っていませんでした。ですが、マグロタルタルとアボカドムースにわさび醤油ドレッシングをかけたものや、葉わさびのお茶漬けなど、日原ワサビを使った創作料理を出してもらいました。どれもワサビの爽やかな風味と繊細な辛味が生かされていて、美味しかったです。

日原産葉わさび醤油漬けです。

日原産葉わさび醤油漬け

マグロタルタルとアボカドムース 日原産わさびしょうゆドレッシングです。

マグロタルタルとアボカドムース 日原産わさびしょうゆドレッシング

シメに日原産葉わさびのお茶漬けはいかがですか。

日原産葉わさびのお茶漬け

この原稿を書くにあたり、訪ねて以来初めてお店に電話したら「葉わさびのパスタも始めたんで、今度食べに来て下さいよ〜」とご主人。

はいはい、もちろん行きますよ〜。その時は生ワサビもお願いしますね!

名称魚菜ダイニングにわのき
所在地島根県益田市駅前町21-4花街ビル1F
電話0856-23-5991

市営浴場でトロットロになる

さて、温泉です。

島根には温泉津温泉や玉造温泉など様々な名温泉地がありますが、地元の人に案内されたのは浜田市金城町の「美又温泉」です。

どこか懐かしい雰囲気です。

一昔前の温泉地の風情

その名も美又川沿いに数軒の旅館が立ち並ぶだけの小さな温泉地ですが、ひなびた風情があり、なんとも言えず良かったです。

“神楽”は石見地方の伝統芸能です。

石見地方の伝統芸能“神楽”のお面を飾る旅館

温泉街のど真ん中に美肌に効くとされる神社があります。

温泉街のど真ん中には美肌に効く?神社が

開湯は江戸時代末の元治元(1864)年。猿が傷の手当てをしていたのを見て温泉を発見したのだとか。

長く”美肌の湯”といわれていて、最近正式に調査したところ、美肌成分のメタケイ酸が豊富かつph値が非常に高かったということです。ワタクシ、温泉にはさほど詳しくありませんが、ph値が高いということはアルカリ性で、肌の皮脂が溶かされ、石鹸のようにヌルヌル、トロリとする──ということぐらいは知っています。

トロリとした肌触りは温泉らしくていいですよね。これは期待が高まります。温泉街の突き当りにある市営の「美又温泉会館」に足を運びました。

「美又温泉開館」の外観です。

市営の「美又温泉開館」

画になる外観です。

なんかカッコイイんでアップで撮りました

非常に小さな、銭湯に毛の生えたような入浴施設なんですが、実は美又温泉の元湯。そして入ってみて驚きました。トロリどころか“トロットロ!”なのです。

こじんまりとした湯船です。

小さいけれど個性的な湯船。真ん中の石はナニ?

”誰かガゴメ昆布でも入れた?”と言いたくなるほど。

いや、ホント、冗談じゃなくて。地元の人は“日本一のトロトロ温泉”と自慢しています。

名称美又温泉会館
所在地島根県浜田市金城町追原11
電話0855-42-1686

無料の足湯に浸かるのもおすすめです。

温泉街の入り口には無料の足湯も

自販機うどんも、日原産ワサビの料理を出す居酒屋も、美又温泉も、地元の人の口コミ、あるいは自分の足で探し当てたもの。こういうのって宝物を見つけたみたいで、一層喜びが深まります。

旅は宝探し。ガイドブックに頼り切りじゃ、こうは行きませんよね。

※本文中の情報はすべて取材時のものです。

(2018年6月5日公開)

美又温泉の宿情報はこちら

いからし ひろき
東京在住のライター・構成作家。食・酒・旅を主なテーマに、「日刊ゲンダイ」「おとなの週末」などの雑誌、テレビ、ウェブで活躍中。日本旅のペンクラブ理事。 (プロフィール写真:kurekaoru)

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