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【連載】街道を歩いて旅をする 「第4回 カメラを片手に歩きたい、旧街道のテーマパーク・善光寺街道」

【連載】街道を歩いて旅をする 「第4回 カメラを片手に歩きたい、旧街道のテーマパーク・善光寺街道」

当連載「街道を歩いて旅をする」では、東海道、日光街道、佐屋街道という3つの街道をご紹介してまいりました。いずれも比較的アクセスが良く道も歩きやすく、街道歩きは初めてという方でも安心して歩ける街道でした。

が、ひとつ難点があるとすれば、「旧街道の趣」にやや欠けるという点です。

単調な道筋の中に面白いものを見つけるのが街道歩きの楽しみ……とはいえ、それでもやはりフォトジェニックな町並みを歩くことができるならそれに越したことはありません。そんな心ときめくスポットが目白押しの街道はないの? というわけで、今回ご紹介するのはぜひともカメラを片手に歩きたい旧街道ファン垂涎の街道、「善光寺街道」です。

海野宿

善光寺街道の宿場、海野宿

日本の中心を縦断し、日本海に向かう道筋

「北国街道」と呼ばれる街道があります。五街道のひとつ「中山道」(群馬・長野・岐阜など内陸部を通って江戸と京都を結ぶ街道)と長野県で分かれ、新潟県に向かって北上する街道です。現代で言うところのJR信越本線(横川―軽井沢間が廃止され、長野県内の大部分の区間は現在しなの鉄道となっています)にほぼ沿ったルートで、近世も日本海側と江戸や京都を繋ぐ重要な街道でした。有名なところでは、加賀藩の大名行列が使った道でもあります。

避暑地として人気の軽井沢で中山道と分かれて、長野県を北上し直江津に至る道筋。このうちの長野までの区間は、「善光寺街道」とも呼ばれ、1400年の歴史を持つという古刹、善光寺に参る街道として利用されました。「牛に引かれて善光寺参り」の言葉も有名な、あの善光寺です。

牛に引かれて善光寺参り

善光寺にある、「牛に引かれて善光寺参り」の絵

今回ご紹介するのは、この善光寺街道。小諸・海野宿・上田・長野……この地名の羅列を聞いただけでも、レトロ町並みマニアなら脊髄反射で新幹線のチケットを予約してしまいかねません。

この街道、「旧街道の趣」抜群のレトロな町並みを通りまくる、街道テーマパークのような道筋なのです。

立派な常夜灯に見送られて、「信濃追分」を出発!

始まりは、軽井沢の別荘地の西部に位置する「信濃追分」。「追分(おいわけ)」とは、街道が別の街道と分岐するところを言う言葉です。現在でも各所に地名として残っていますが、ここ信濃追分もそのひとつ。先述のとおり、ここで中山道と分岐します。

左の大通りが五街道の中山道。右に向かう細道が、善光寺街道(北国街道)。こんな分かれ道を見ただけでも、街道ウォーカーは心が騒いでしまいます。

善光寺街道

ちなみにこの場所へのアクセスは、新幹線の止まる軽井沢駅からしなの鉄道に乗り換えて2駅の、その名も信濃追分駅から徒歩30分弱。……街道を歩き始める前に30分も歩くの!? となりますが、ほかに交通手段がないので、別荘地の森林浴を楽しみながら歩いてください。

最初の宿場は、「小諸なる古城のほとり」の小諸宿

中山道と分かれ、しばらくの間は鉄道と少し離れた場所を歩きます。最初の宿場、小諸宿までの道のりは、ちょっと長めです。追分から3里半(約14km)。川を渡ると小諸宿に入ります。

小諸宿

起源は平安時代にまでさかのぼるという小諸城の城下町。近世は酒や味噌、醤油などの醸造業や、製糸産業で栄えた商業の街だったと言い、現在も宿場に入ると間もなく老舗・山吹味噌の酢久商店のサイロが出迎えてくれます。

ここから続く2km弱の宿場の家並みには、出桁造りの旧家建築あり、昭和レトロな看板建築ありでカメラをしまうヒマがありません。道筋に立ち並ぶ建築物を、一軒一軒撮って歩きたくなるような素敵な街です。

出桁造りの旧家建築

小諸では本陣(主に大名が泊まる宿)の建物も公開されています。元の場所からは移築されているため少し脇道にそれますが、ぜひとも立ち寄っておきたいところです。

本陣(主に大名が泊まる宿)の建物

ちなみにお殿様の泊まった部屋は「上段の間」と呼ばれ、部屋の造りから家具調度品に至るまで趣向を凝らしたものとなっていました。

上段の間

そしてここ小諸宿で忘れてはいけないのが、小諸城の跡地である小諸懐古園。島崎藤村の「千曲川旅情の歌」の出だしで「小諸なる古城」とうたわれているお城の跡地です。

小諸懐古園

木曽義仲の武将であった小室太郎光兼の築いた館を起源とし、武田信玄の時代に重臣・山本勘助が原形を作ったと言い、戦国時代末期には豊臣秀吉の家臣・仙石秀久が現代に残っている城の形に整備しました。現在は公園として整備されていますが、門や石垣がお城の時代の姿をとどめています。

石垣

小諸の町は、駅から続く大きな商店街を含めて昭和レトロの風情の漂う良い町です。本陣や懐古園はもちろんですが、ちょっと時間に余裕を持って散策したくなるところ。観光マップが、駅の観光案内で配布されています。

「うだつの上がる」町、海野宿

さらに北に向かって田中宿を過ぎると現れるのが、「うだつ」の町並みの海野(うんの)宿。木曽義仲の挙兵や川中島の合戦で知られる歴史の古い土地で、昔から交通の要衝だったことがうかがい知れますが、現在はなんといってもこの町並みが有名。「旧街道の宿場町」として、中山道の奈良井・妻籠・馬籠宿や東海道の関宿、会津西街道の大内宿などとともに常に名前の挙がる人気の宿場町です。

宿場の入口、白鳥神社から1km近く続くこの町並みに、テンション上がりっぱなしです。カメラのバッテリーとメモリ残量を確認してから宿場にお入りください。

白鳥神社から1km近く続く町並み

この町並み、先述のとおり「うだつの町並み」と呼ばれます。うだつとは、家の外壁に取り付けられた防火・防風壁のことです。造るのに大層な費用がかかることから、家格を表す象徴となっていました。現在、なかなか出世できない人などを指して「うだつが上がらない」という言葉がありますが、裕福な家でないと立派なうだつを上げることができないというところから来た言葉です。

うだつの町並み

現在に残る「うだつの町並み」としては、この海野宿や徳島県美馬市の脇町などが有名ですが、「うだつの上がった」家がこれだけの軒数立ち並んでいるというのは町がとても豊かだったことをしのばせます。ちなみに一口に「うだつ」と言っても様々なバリエーションがありますが、ここ海野宿ではいろんな種類のうだつを一通り見ることができます。建築ファンは、お見逃しなく!

城下町・上田の一画に残る、宿場の趣を残した柳町

海野宿あたりから、道は千曲川に沿って北西に進みます。宿場を出るとすぐに、上田市に入ります。一昨年の大河ドラマ「真田丸」でも脚光を浴びた上田市です。

真田幸村の像

上田駅前の、真田幸村の像

海野宿からしなの鉄道の駅を2つほど過ぎると、上田城の城下町でもある上田宿に入ります。はいはい、ここで上田城跡に立ち寄って見ればいいんでしょ? などと思ったら大間違い。街道ウォーカー的ツボは、上田城の東側にある「柳町」です。またこんな素敵な町並みが登場してしまいました……もう撮った写真の数、大変なことになっていませんか?

上田城の城下町でもある上田宿

こちらは前の小諸や海野に比べるとだいぶコンパクトではありますが、一歩進むごとに足を止めたくなる景観は前の二つに引けをとりません。町並みの雰囲気の良さもさることながら、建物を利用しているお店がオシャレで活気があるのもこの通りの特徴です。ちょっと寄って覗いて行きたくなるお店が並んでいます。

上田宿の町並み

なお、柳町だけでなくその前後にも素敵な建物がたくさんありますので、上田市内、気を抜けません。上田市は映画やドラマのロケ招致に力を入れていて、たくさんの映画・ドラマが撮影されています。上田城前の観光案内などで、ロケ地マップを配布しています。

全部見ていては街道歩きが進みませんが、ご紹介してきた小諸にしろ海野にしろ、ここ上田にしろ、たださくさくと通り過ぎてしまうのはもったいないくらいに見どころいっぱいですね。じっくり時間を掛けて歩く方が楽しそうです。

街道名物、蕎麦とくるみ

信州を歩くなら、食べたい名物といえばやはりお蕎麦。そして北国街道沿いは、国内最大規模のくるみの産地でもあります。

善光寺街道にはたくさんの蕎麦屋がありますが、中で目を引くのが「くるみ蕎麦」の文字。甘辛のくるみだれをつけて食べるお蕎麦は、旅の疲れを癒してくれる逸品です。

くるみ蕎麦

小諸宿や海野宿、上田宿などで食べられますが、海野宿はお店の数が少ないので、事前に営業状況を確認されてから行かれるのが安心です。

また海野宿には、宿場内の古い建物でくるみおはぎを食べられる店もあります。

くるみおはぎ

シーズンなら街道沿いでクルミを売っていることもあるので、お土産にもぜひ!と言っても重いので、歩いている途中で買うのは考えものですね。

信州名物といえばこのほかにも前述したお酒や味噌、醤油などがお土産に最適ですが、いずれも重量があるので買い物は計画的に。または背負って歩ける丈夫なリュックで行きましょう!

旅の終点は、日本屈指の古刹・善光寺

上田を出て、北上します。誰もが名前を聞いたことのあるような観光地は少なくなりますが、全体として往時の雰囲気の残る良い道筋です。本来この、「昔のままの道幅で、道沿いにレトロな看板建築の建物や神社や道祖神なんかがぼつぼつ現れる」くらいが街道歩き的「素敵な道」なのですが、この街道、ちょっと贅沢すぎました。

そんなテーマパークみたいな街道の終着点は、長野。1400年の歴史を持ち、日本全国からはもちろん海外からも参詣客が訪れる国内屈指の古刹、善光寺です。

長野駅の近くで新幹線としなの鉄道の線路を越えると、大門南交差点あたりから宿場と参道を意識した建物が並んでいます。

宿場と参道を意識した建物

建物は新しいものも多いのですが、目を楽しませてくれる町並み。中で古いのが、宿場時代に本陣であった「藤屋御本陳」です。1648年創業という歴史を持ち、大正時代に建てられたアールデコ様式の現在の建物は、国の文化財に登録されています。現在は旅館として宿泊することはできませんが、レストランと結婚式場を営業しています。

藤屋御本陳

そんな建物を見ながら進むと突き当るのが、いよいよ旅の終点、善光寺。

善光寺

日本有数の名刹だけあって、境内はとても広く見て歩くのに時間がかかります。無事に旅を終えたお礼と、次の旅の安全を願って、たっぷり時間を取ってお参りしていきましょう。

なお、新潟・直江津に向かう北国街道は、ここからさらに北を目指して進みます。いずれ太平洋側と日本海側を結ぶ本州横断の旅もいかがでしょうか。

善光寺街道は、約70kmの街道です。厳しい区間もなく、宿泊場所や飲食店なども豊富とまでは言えませんが、それほど心配は要りません。また、ほとんどの区間が鉄道に沿っているので、計画も立てやすく疲れたところで終了ということも可能です。(ただし、線路は近いものの隣の駅まで3km、電車は1時間に1、2本なので、次の電車の時間までもう一駅歩くという決断は慎重に)

また、温泉の多い長野県。街道周辺でも戸倉上山田温泉や、上田から丸窓電車の別所線でちょっと足を延ばせば別所温泉などもあります。

内陸部なのでお住まいの地域によってはアクセスにやや難ありですが、少しまとまったお休みに歩いてみてはいかがでしょうか。立ち寄りどころが多いので、時間に余裕を持って計画されることをお勧めします。そしてカメラをお忘れなく!

(2018年5月9日公開)

戸倉上山田温泉の宿情報はこちら

別所温泉の宿情報はこちら

川島 美歩
「散歩かふぇ ちゃらぽこ」オーナー/散歩と旅とコーヒーが大好き。ある日思いつきで東海道を歩き始めたことをきっかけに、街道歩きにハマり、2010年東海道を踏破したイキオイで東京・東高円寺に「散歩と旅」をテーマにした「散歩かふぇ」を開業。以来なかなか遠くへ歩きに行くことが出来ずにいますが、東高円寺の店で街道ウォーカーさん、散歩家さんのお土産話を聞きながら、コーヒーを入れたりカレーを作ったり散歩会のコースやイベントを考えたりしています。休日の散歩は、寄り道したりコーヒーを飲んだり猫を追いかけたりのゆるゆるペースですが、放っておくと20~30kmくらい歩きます。●「散歩かふぇ ちゃらぽこ」( https://charapoko.com/ )