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【連載】どっぷり船旅人生のススメ「第5回 沖縄行きトロピカル航路と幻の海中温泉」

【連載】どっぷり船旅人生のススメ「第5回 沖縄行きトロピカル航路と幻の海中温泉」

鹿児島から25時間かけて那覇港に到着した「フェリー波之上」

船旅好きにとって、「南国の楽園」と呼ばれる島行きは誰もが憧れる航路です。

日本では沖縄行きフェリーがそれにあたるかもしれません。でも、かつては東京や大阪からも出ていた本土発沖縄行きフェリーも、旅客を扱うものは鹿児島からのみとなってしまいました。現在、マルエーフェリーとマリックスラインの2社がそれぞれ2隻、合計4隻で鹿児島~沖縄(那覇)間を毎日交互に結んでいます。

そのなかで今回紹介するのはマルエーフェリーの「フェリー波之上」。どうして「フェリー波之上」を選んだかというと、この船でしか行けない島と温泉があるからなんです。

鹿児島新港ターミナルからみる桜島

桜島に見送られて出港!

鹿児島中央駅前から発車するポートライナーバスで20分、鹿児島新港の奄美・沖縄旅客ターミナルに着きます。まるで空港のようにきれいで開放的なターミナルで、まずは乗船手続き。待合ロビーの窓から雄大な桜島がど~んと見えるのが、さすが鹿児島です。

18時、その桜島に見送られつつ出港。まずは右手に薩摩、左手に大隅と2つの半島を眺めつつ錦江(鹿児島)湾サンセットクルーズを楽しみます。やがて右手に薩摩富士の異名をとる開聞岳の山容が、そして左手に本土最南端の佐多岬が現れます。佐多岬を過ぎると、船はいよいよ弓のように連なる琉球弧(南西諸島)に沿って針路をとります。

下船先ごとに乗客のキャビンも分けられている

鹿児島~沖縄航路の最新船「フェリー波之上」

「フェリー波之上」がデビューしたのは2012年9月27日。鹿児島~沖縄航路ではもっとも新しい船です。人間でいえばこの秋で6歳になる、まだまだ若いフェリーということもあり、展望サロンやロビーなど施設はピカピカです。

レストランもあり、各種定食などメニューも豊富。沖縄そばが販売され、自動販売機にオリオンビールがあるのも、沖縄行きの船ということを感じさせます。筆者のおすすめは朝食のサンドイッチセット。値段の割にはボリュームもあり、何よりもおいしいのが魅力です!

売店の品ぞろえも面白いですよ。この航路では奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島にも寄港しますが、島々の珍しいお土産もズラリ並んでいます。寄港中の一時下船はできませんが、こういったお土産を買えば島に行った気分になれるでしょう。

与論島に寄港したら、何はともあれ海を眺めてみよう

与論の海の美しさに見とれるばかり

鹿児島から沖縄(那覇)まで25時間もかかる長距離航路ですが、コンサートなどの船内イベントは行われません。しかしこの航路では、船内イベントは不要です。その理由は翌日になればわかります。

鹿児島出港の翌朝5時、「フェリー波之上」は奄美大島の名瀬に入港します。季節によっては奄美大島に昇る朝日をデッキから拝むことができます。5時50分、名瀬を出港。奄美の美しい海岸線を眺めつつ船は進んでいきます。9時10分に亀徳(徳之島)、11時30分に和泊(沖永良部島)寄港。琉球弧を南下するにつれ、海の色がどんどん青みを増してゆくのがわかります。

そしてこの船旅で見逃してならないのが与論島です。入港は13時40分ですが、その直前から広がるコバルトブルーの海とビーチの白い砂が織りなすコントラストの美しさに思わず息を呑むことでしょう。与論停泊は30分。その間、ずーっとデッキに出て、ただただ与論の海の美しさに見とれてしまいました。

船上から「沖縄美ら海水族館」が見えた

サンゴ礁やリゾートを眺めつつ那覇にゴール

意外と知られていないかもしれませんが、与論島までは鹿児島県。つまり、与論を出ればいよいよ沖縄県に入ります。タッチューと呼ばれるユニークな姿の城山(ぐすくやま)がそびえる伊江島が近づくと、美しいサンゴ礁が広がります。伊江島と本部半島にはさまれた伊江水道を通過するとき、船の上から沖縄美ら海水族館の建物も眺められます。

美しいサンゴ礁に囲まれた人口約40余りの小島・水納(みんな)島から瀬底(せそこ)島を迂回するように本部(もとぶ)に入港したのは16時40分。南国の楽園・沖縄のイメージ通りの素晴らしい風景が続きます。本部を出港し、残波(ざんぱ)岬などリゾートビーチを左手に見ながら船は終点の那覇を目指します。

そして19時。鹿児島からの25時間があっという間に感じられた、魅惑のトロピカルフェリーの旅は那覇港で大団円を迎えました。

平内海中温泉(屋久島)

屋久島で下船して、2時間限定の海中温泉へ

このトロピカル航路、鹿児島行きの那覇出港は朝7時となります。そして、「フェリー波之上」鹿児島行きの便に限って寄港する島があります。それがユネスコ世界自然遺産に指定されている屋久島。屋久島下船の事前予約(運航日の4日前で予約締切)人数が2名以上という条件付きですが、それがクリアできた場合、那覇出港の翌朝4時40分に寄港します。

屋久島には1日2回、干潮の前後2時間しか出現しない「幻の海中温泉」があります。平内海中温泉といい、海に面した脱衣所もない極めて野趣あふれる温泉です。「フェリー波之上」の屋久島寄港は、2019年2月末までの実験運航とされており、それ以後の実施はいまのところ不明です。

唯一の本土発沖縄行き航路で、「フェリー波之上」鹿児島行きのみ実施される屋久島への寄港。そして約2時間しか出現しない幻の海中温泉。船でゆくレア尽くしの屋久島温泉旅、稀有な体験になること間違いなしです。

(2018年7月6日公開)

フェリー波之上の出港地・鹿児島市内の宿情報はこちら

カナマル トモヨシ
航海作家。1966年富山県生まれ。クルーズやフェリーなどの乗船レポートをメインに活動する航海作家・船旅ジャーナリスト。クルーズ記者会・会員。主な著書に「アジアフェリーで出かけよう!」(出版文化社)、「フェリーでGO!」(ユビキタスタジオ)、「超実践的クルーズ入門」(中公新書ラクレ)など。雑誌「クルーズ」(海事プレス社)に「フェリーdeクルーズ」を連載中。フェリー専門誌「フェリーズ」(海事プレス社)の記事も数多く手がける。カナマルトモヨシの船旅人生 http://rohnin1966.at.webry.info/