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俳人・堀本裕樹と行く、湯けむり漂う鉄輪温泉

俳人・堀本裕樹と行く、湯けむり漂う鉄輪温泉

日本有数の温泉湧出量を誇る大分県別府市。中でも、源泉温度が100度近くあり、至るところで湯けむりが湧き上がるのが鉄輪温泉です。湯治文化が今なお色濃く残るこの街は、長年俳句にも力を入れており、多くの旅人たちがこの地に句を残してきました。

そんな “ 温泉と俳句の街 ” を、ピース又吉直樹さんとの共著『芸人と俳人』で知られる俳人・堀本裕樹さんと巡りました。堀本さんが鉄輪を訪れた6月は、湯治場や地獄蒸しの魅力を伝えるイベント「蒸しツーリズム」の真っ最中。イベント内のプログラム「地獄蒸し大豆で味噌づくり」にも参加いただき、鉄輪の文化にもたくさん触れていただきました!

<プロフィール>

堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)

1974年和歌山県生まれ。國學院大学卒。俳句結社「蒼海」主宰。俳人協会幹事。第2回北斗賞、第36回俳人協会新人賞を受賞。「NHK俳句」2016、2019年度選者。東京経済大学非常勤講師、二松学舎大学非常勤講師。著作に、句集『熊野曼陀羅』、『NHK俳句 ひぐらし先生、俳句おしえてください。』、『俳句の図書室』、又吉直樹との共著『芸人と俳人』など多数。

公式サイト http://horimotoyuki.com/

「地獄蒸し」大豆で味噌づくり体験。凝縮した旨味に感動!

鉄輪のメイン通り「いでゆ坂」から一本通りを入って見えてくるのが、古い石畳と明治時代に建てられた風情漂う「冨士屋ギャラリー」。今回、堀本さんが体験する「地獄蒸し大豆で味噌づくり」プログラムはこちらで開催されました。歴史ある建物での味噌づくりから、鉄輪の旅が始まります。

味噌づくりが行われる冨士屋ギャラリー。堀本さんも初めての味噌作りに緊張と楽しさが入り混じったご様子。では行ってみましょう。

冨士屋ギャラリーのオーナー、安波治子さんが講師を務める味噌づくり。蒸しツーリズムの中でも人気のプログラムです。味噌づくりについて説明をしていただいたら、早速スタートです。まずは地獄蒸し大豆が登場。堀本さんも蒸したて、ツヤツヤな大豆を味見し「美味しい!」と感動。しっかり、麹と塩を混ぜ合わせ、それにつぶした大豆を合わせていきます。

地獄蒸しした大豆は殺菌効果も高く、市販の味噌より4%ほど塩分少な目でも腐らないそう。体に優しいお味噌、嬉しいですよね。

麹、塩、大豆を混ぜ合わせたものを団子状にして、密封性のある袋にいれて完成。あとは三カ月熟成を待つのみです。味噌づくりは体力仕事。途中、慣れない作業に少し疲れた様子の堀本さんも作業を終え、大事そうに味噌を抱えながら「三カ月見守ります。この味噌で何か作るのが楽しみ」と、なんだか嬉しそう。

味噌作りのあとは、みんなでお食事。お味噌汁やとうもろこしのおにぎりなどが並びます。堀本さん、両手に花でおしゃべりを楽しんでいました。

食事を終え、冨士屋ギャラリーの庭園を散策。季節ごとに咲き誇る様々な花が来客者をもてなします。堀本さんも満開のツツジの木、淡いブルーが美しいアジサイに見入っていました。俳句を詠む上でも花々はその季節の光景を伝える季語として用いられます。さて、この風景からいったいどんな俳句が生まれるのでしょうか。

足蒸しで全身ぽっかぽか。温泉蒸気でリフレッシュ!

冨士屋ギャラリーから徒歩5分ほどのところにある、無料で楽しめる「足蒸し」へ向かいます。初めて見る足蒸しに興味津々の堀本さん。蒸し釜に両足を入れて、蒸気が逃げないように木箱のような蓋を被せれば準備完了です。

「ちょうどいい温度で気持ちいい~。寝ちゃいそうだね」と、しばし休息です。街歩きに疲れたら、足蒸ししながら休憩、なんて鉄輪ならではのリフレッシュ法ですね。

地元で愛される風情ある食堂で大分名物を存分に味わう

さて、足蒸しを終えお腹も空いてきたところで、地元の方で賑わう食堂へ向かいます。途中、きれいな花を見つけた堀本さん。写真を撮って、辞書を取り出しメモを残します。鉄輪は俳句が盛んな地でもあり、街中には旅人が詠んだ句碑がいくつも建てられています。堀本さん、一つ一つ丁寧に読みながら歩みを進めます。

5分ほど歩いて、「ひかり食堂」に到着。趣のある暖簾をくぐります。

こちらの食堂に来たなら、大分名物「別府冷麺」と「とり天」は外せません。中でも同店の別府冷麺はオリジナルで、氷で味が薄まらないよう和風だしをシャーベット状にしたものをトッピング。最後まで美味しくいただけます。

大分名物の「とり天」にポン酢をつけて頬張ります。笑顔で「これ美味しい!」と一言。衣はサクッと中はふわっと、軽い口当たりのとり天についつい箸が進みます。食後には何やらメモをとり始めた堀本さん。一句が生まれたのでしょうか……。

湯治宿を拝見。今なお続く自炊湯治とは?

お腹もいっぱいになったところで、湯治宿「みゆき屋」へ向かいます。館内にはご主人の趣味が高じた骨董品が、きれいに並べられています。

女将さんにご案内いただき、客室へ。こちら旧館はすべてトイレ、洗面が共用、昔ながらの湯治の雰囲気が漂っています。堀本さん、整然とした客室で新しい句を考え中のようです。

みゆき屋さん名物「蒸し湯」は小さな入り口から屈んで入ります。「入るのに勇気がいりますね」と驚きの表情の堀本さん。中には電気がなく、天井が低いため寝たままで蒸し湯に入ります。「思ったよりモワッとしますね」。堀本さん入らなくて大丈夫ですか?

熱~い地獄蒸しを体験。何を蒸そうかワクワクします

さてお次は、みゆき屋さんから5分ほど坂を上ったところにある湯治宿「大黒屋」さんへ。

地獄釜を併設し、宿泊者はもちろん地獄釜だけ利用することもできます。今回は食材を持ち込み、釜だけ利用させていただきました。食材をのせたざるを地獄釜に入れて、10分ほど蒸します。

それでは熱々のうちに「いただきます!どれも素材の甘みが出ている」とお昼を食べて間もないのに食が進みます。鉄輪温泉の蒸気には塩分が含まれており、素材の旨味を引き出してくれます。さらに地獄蒸しは消化にも良く、とてもヘルシー!

続いて、一晩蒸した燻製卵と、温泉につけた茹で卵を食べ比べ。「まるで金みたいな黄身ですね」。卵は一晩蒸すと茶色っぽい色味となります。堀本さんのお好みはというと、「どちらも美味しいけれど、一晩蒸した卵」だそう。こんな食べ比べも楽しいですね。

堀本さんの後ろでずっと待つ猫ちゃんの姿が。地獄蒸しした鮭を一口あげて、何か考えている様子。どうやら堀本さん、ここでも俳句を詠んでいるようです。

迫力ある源泉に感動。温泉が流れる川に圧倒

鉄輪ならではの景色といえばやはり、湯けむり。離れて眺める湯けむりの美しさはもちろんですが、間近で見る源泉の迫力はあっとう。しばらくじっと湯けむりを眺め、「この景色を写真に残したい」と堀本さんが一言。

その横には、源泉から流れ出た温泉が流れる川があり、湯けむりがモクモクと湧き上がっています。下流は熱帯魚のグッピーが生息できるほどの温かさだとか。堀本さん、このダイナミックな景色に心を掴まれたようです。

小さな路地に佇む共同湯。散策途中に立ち寄ろう

よく歩いたところで、堀本さんも楽しみにしていた「谷の湯」にて温泉タイムです。

「谷の湯」は100年以上の歴史ある共同湯。浴槽の目の前に脱衣所がある、昔のままのシンプルな造りです。「お湯が柔らかくて、温度がちょうどよい。ずっと入ってられますね」と堀本さんしばしリラックス。

中を見渡すと、不動明王が祀られていることに気づいた堀本さん。「まるで谷の湯を見守っているみたいですね。ここで一句できそうです」。どんな俳句になったのでしょうか?!楽しみです!

湯けむりが彩る別府湾を一望。壮大な景色に想いを載せて

ここは別府を見下ろせる俳句広場。鉄輪の俳句団体「愛酎会」の河野会長に来ていただき、なぜ鉄輪で俳句がさかんに詠まれるようになったかをお話してくださいました。

昔から鉄輪の湯量は豊富でしたが、シンボルとなるような観光名所がなかったため、俳句の街としてPRしていこうと約25年前に活動が始まったそうです。鉄輪を訪れた観光客や地元の方に投句をしていただき、年間最優秀作に選ばれた方の句碑を建てるという取り組みを続けています。

堀本さんは会長の話に耳を傾けながら、しばし俳句広場から見える別府湾や湯けむりに目をやり、何か思いを巡らせている様子。

モクモクと湯けむりが湧き上がる鉄輪を巡り終えた堀本さん。「どこも印象的でした。さまざまな場で俳句が湧き出てきました」と笑顔で語ってくれました。どうやら、鉄輪の街を味わい尽くした旅となったようです。

今回、堀本さんが作った俳句は俳人・堀本裕樹が詠む、鉄輪吟行で生まれた8句の記事にて掲載。どんな句が生まれたのか、堀本さんの解説と共にお読みください。

「十七音ことばの風景かんなわ俳句大賞」はこちら

【旅中に立ち寄ったスポット】

冨士屋ギャラリー https://www.fujiya-momo.jp/

地獄蒸し工房(足蒸し) https://www.city.beppu.oita.jp/sisetu/sangyou_kankou/11kankou_11-17jikgokumushi.html

ひかり食堂 https://tabelog.com/oita/A4402/A440202/44002927/

みゆき屋 http://miyukiya.net/

大黒屋 http://daikokuyaryokan-beppu.com/

谷の湯 https://www.8toch.net/hatto/?sp=tani