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俳人・堀本裕樹が詠む、鉄輪吟行で生まれた8句

俳人・堀本裕樹が詠む、鉄輪吟行で生まれた8句

大分県別府市にある、至るところで湯けむりがモクモクと立ち込めるエリア・鉄輪。湯治文化が今なお色濃く残るこの街を、ピース又吉直樹さんとの共著『芸人と俳人』で知られる俳人・堀本裕樹さんと、「吟行」(俳句を作るために外歩きをすること)をしてまいりました。

多くの刺激を受けた結果、堀本さんがゆこゆこだけのオリジナルの俳句をなんと8句も詠んでくれました。それぞれどういった意図で詠んだのか、堀本さんの解説付きです。吟行の様子は「俳人・堀本裕樹と行く、湯けむり漂う鉄輪温泉街」の記事をお読みください。記事を見た後に各俳句を見ると、きっと印象が変わるはずです!

<プロフィール>

堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)

1974年和歌山県生まれ。國學院大学卒。俳句結社「蒼海」主宰。俳人協会幹事。第2回北斗賞、第36回俳人協会新人賞を受賞。「NHK俳句」2016、2019年度選者。東京経済大学非常勤講師、二松学舎大学非常勤講師。著作に、句集『熊野曼陀羅』、『NHK俳句 ひぐらし先生、俳句おしえてください。』、『俳句の図書室』、又吉直樹との共著『芸人と俳人』など多数。

公式サイト http://horimotoyuki.com/

湯煙に万緑けむり立ちにけり

「鉄輪温泉を訪れてみると、至るところに湯けむりが立ち上っていたんですね。すごいな、やっぱり温泉地だなと、感嘆しました。そんな湯けむりを眺めていると、遠くに緑がたくさん見えてきて。夏の緑は、万の緑と書いて『万緑(ばんりょく)』というのですが、それと湯けむりが重なった風景が印象的で、この一句が生まれました」

躑躅散る窓や味噌玉作りつつ

「鉄輪で味噌作り体験をした時に、できた一句です。冨士屋ギャラリーで行われた味噌作り、ふと窓の外を見ると躑躅(つつじ)が散り始めていて……。窓から見える散る躑躅と自分が味噌玉をこねる風景を取り合わせて作りました。躑躅は春の季語になりますが、夏でも咲いている地方がたくさんあるのと、散り始めていたので、面白い句になるかなと思い詠みました」

夏のれん押せばとり天香りけり

「鉄輪にあるひかり食堂さんで、昼食をいただいた際に注文した“とり天”を詠んだ一句です。季語は夏のれん。のれんを押して入ると、ふと、とり天の香りが漂ってきて……。その情景をそのまま詠んでみました。とり天が大変おいしくて、すごく印象に残りました。俳句は、食べ物もいろいろ表現できるんです」

猫のことも気にかけ夏の地獄蒸し

「鉄輪の名物である“地獄蒸し”を体験した時に作った一句です。ざるに食材をのせ、温泉の蒸気が噴き出す釜に入れて蒸しあがるまで待つ、というのが一連の流れなのですが、ちょうどその場に猫がいたんですね。いつ蒸しあがるのかと地獄蒸しのことも気にかかるし、近くの猫も気にかかって、こういう句を詠みました。季語は夏。ざるを置く時、温泉の蒸気がすごく暑かったのですが、地獄蒸しに『夏』を合わせることで、より暑さを強調してみました」

ブーゲンビリア蒸し卵割れば金

「地獄蒸しで作った卵を食べた時の一句です。卵を食べる時に、殻をパっと割って開けますよね。すると黄身が出てくるのですが、その黄身を『金』とたとえました。本来の色は黄色ですが、とても美味しそうで僕には金色に見えたんです。近くにはブーゲンビリアが咲いていて、その鮮やかな紫色と蒸し卵の金色を対比させてみました。俳句には色を対比して美しくみせるという詠み方もあります」

みゆき屋の蒸し湯入口いよいよ暑

「湯治ができる旅館、みゆき屋さんにお伺いした時に作った一句です。内湯を見せていただいたのですが、そこに名物の蒸し湯があって。覗こうと思い入り口を開けたら、モワッと熱気が伝わってきたので『いよいよ暑(しょ)』と表現しました。暑しとか暑さというのが夏の季語なのですが、一語でいうと『暑』という言葉で表現できます。蒸し湯の入り口から伝わってきた熱気を、端的に暑という季語で表しました」

夏夕べ谷の湯を守る不動尊「共同浴場、谷の湯さんで作った一句です。外はちょうど日が暮れて、いい雰囲気。さっそく温泉に入ったら、肌にしっとりと馴染む湯で、ずっと浸かっていたいくらい気持ちよくて……。ふと、辺り一面を見渡すと、施設内に不動尊が祀られていました。まるでお湯を守っている感じに見えたので『守る』を使ったのですが、古語では『もる』と読みます。僕も不動尊に見守られながら湯に入りました」

湯の川の音尽きざるや夏つばめ「お湯の流れる川を、初めて見ました。常に蒸気が湧き上がり、滔々(とうとう)と流れていて。その様子を見た時に、鉄輪温泉の湯量の豊富さを象徴しているなと思い『湯の川の音尽きざるや』と詠みました。湯も尽きないし、川音も尽きない。そこを夏のつばめが飛んでいました。つばめは春の季語ですが『夏つばめ』と詠めば夏の季語になります。そんな風景に惹かれて作った一句でした」

「自分の足で歩き、目で見て、感じて、俳句を作って欲しい」

「今回僕も、鉄輪温泉を吟行して俳句を8句作りましたが、皆さんが俳句を作る時にも実践していただきたいことがあります。それは“自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分で感じる”ことです。やはり、いろいろ観察しながら、体験しながらの方が俳句は詠みやすいと思います。例えばすでに体験していることを句にする場合でも、再度体験をしてから詠むと、さらに良い句がうまれることもありますね」

今回の8句を作るきっかけとなった吟行の様子は「俳人・堀本裕樹と行く、湯けむり漂う鉄輪温泉街」の記事をお読みください。

「十七音ことばの風景かんなわ俳句大賞」はこちら