千葉県の房総半島にある鋸山はギザギザしたノコギリの歯のような山肌が特徴的で、山容を一見しただけで名前の由来が分かります。全体が凝灰岩からなっていて、良質な石材の「房州石」として江戸時代から採石されたため、このような姿になりました。
標高は329.5mと正真正銘の“低山”ながら、空気の澄んだ冬場の晴れた日に登れば、東京湾を望む展望台から東京湾の向こうに雪をかぶった富士山を眺めることができます。
登山ルートはいくつもあります。ロープウェーを使って日本寺(要拝観料)の境内から比較的簡単にアクセスすることもできるのですが、今回はJR内房線の浜金谷駅から日本寺の境内を通らずに往復してみました。
車を利用する人は金谷海浜公園プールの無料駐車場を利用できる(7、8月はプール利用者専用)ほか、登山道入口の近くに数台分の有料駐車場(1日500円)があります。
古道のハイキングコース
浜金谷駅を出たら最初の角を左に曲がり、鋸山への道案内表示に従って進みます。観光案内所の前を通るので、必要な人はここでハイキングマップをもらいましょう。早朝で観光案内所が開いていない場合は、すぐ先の肉屋の店先に置いてあるかもしれません。

ここの分岐点で左手に進みます。帰りはこの階段を降りて戻ってきます
この肉屋の先を左に進み線路をくぐり、観月台コース(関東ふれあいの道)・車力道コースの案内に従って進みます。駅から観月台への登山道入口まで10分ほど。ここでは観月台への階段には進まず、車力道への道案内に従って左手に向かいましょう。
舗装された上り坂を進むと、ひかり藻の生息地という看板がありました。真冬ですから当然ながら、穴の中を覗き込んでも光っているものは何も見えません。さらに進むと高速道路の脇に登山口が見えてきます。ここから車力道コースが始まります。ここまで駅から歩いて20分弱です。

房州石を運ぶのに使われていた車力道
車力道というのは、その昔、山頂の周辺で切り出した房州岩を運ぶのに使われた道です。江戸時代後期から鋼のつるはしで1本80kgの房州石を職人1人で1日に8本も切り出したそうです。その房州石を車に3本載せて麓まで運んでいたのは女性たちだったというのだから驚きです。ここでの採石は1980年頃まで続けられました。
車力道は急坂もなく歩きやすいコースで、途中には何カ所かベンチが設けられています。登るに従って海の眺めも良くなってきます。登山口から40分ほどで石切場跡と東京湾を望む展望台への分岐点に到着したら、展望台方面を目指しましょう。
長い階段登りのごほうびは絶景

分岐点から展望台は0.2kmと表示がありますが、急な階段なので長く感じます
道はすぐに急な長い石段となります。ここが今回のコースの唯一といえる難所です。慎重に登りましょう。手すりが整備されているので、それほど恐れる必要はありません。道幅が狭いので、すれ違う時は譲り合いましょう。振り返ると金谷の町と港、海が見えますが、絶景に気を取られて足元がおろそかにならないように。
石段を登りきったところが山頂と「東京湾を望む展望台」への分岐点です。ここにもベンチがありますが展望台まではほんの一息。展望台に進むと急に視界が開けて目の前に青い海が広がり、絶景に思わず息を飲みます。

空気が澄みきった晴天なら、東京湾の向こうに富士山が見えます

東京湾三浦半島、駿河湾、伊豆半島の奥に雪をかぶった富士山が見えます
麓の金谷や保田の町はもちろん、東京湾の向こう側には三浦半島、その奥に伊豆半島が重なり、さらにその向こうには富士山。左手には伊豆大島、右手には横浜や東京のビル群も見えます。これだけの絶景を見るには、やはり空気が澄んでいる冬場がお勧めです。展望台にはベンチもあるので、ゆっくり休憩して絶景を堪能しましょう。

東京湾を望む展望台に比べると、鋸山の山頂は展望がききません
展望台から山頂へはいったん下ってから細かなアップダウンを繰り返して20分ほどかかります。展望台で会った人たちの半分以上が山頂には向かわずに下山していった様子ですが、その理由は山頂に到着したら分かりました。「房州低名山鋸山329.5m」という山頂の表示と一等三角点はあるものの、周りを木々に囲まれていて、見えるのは横浜方面だけです。

幾何学模様のようでダイナミックな採石跡に圧倒されます
山頂からは来た道を引き返します。展望台の分岐からの急な階段は慎重に降りましょう。石切場跡と車力道の分岐点まで降りてきたら、今度は石切場跡に向かいます。石が切り出された跡を間近に見ることができます。見上げると首が痛くなりそう。スケールの大きさに圧倒されます。

下から見上げると「地獄のぞき」が崖から張り出しているのがよくわかります
さらに進むと、日本寺の境内にある有名な展望台「地獄のぞき」を下から見上げられるスポットがあります。岩が崖の上に張り出しているので、下から見上げてもスリル感があります。ハイキングルートからちょっと入ったところには石切り場跡(岩舞台)もあるので、時間があったら見学していきましょう。

観月台から望む金谷の町並み。右手には金谷の駅、左手奥には富士山が見えます
石切場跡の見物が終わったら、観月台に向かって降りていきます。「関東ふれあいの道」として整備されている歩きやすいコースです。観月台までだいたい30分ほど。観月台の手前にこのコース唯一のトイレがあります。観月台から金谷港と富士山の最後の眺めを楽しんだら、約400段の階段を降りると登山口に戻ります。
かつては鍛冶屋だった老舗旅館

外観からは想像できないほど長い歴史を持つかぢや旅館
下山後は温泉でハイキングの疲れを癒やしましょう。登山口から駅に戻る途中の道を少し外れたところにある「かぢや旅館」は鋸山金谷温泉を使っています。
日帰り入浴は原則として正午から午後7時まで。時間変更や繁忙期は入浴不可なこともあるので、事前に電話で確認することをお勧めします。入浴料は大人700円、小学生500円、2歳以上の幼児300円。

明るい温泉浴場。女湯の浴槽
渡り廊下を進んだ別棟に男女別の内湯があります。源泉は富津市が1970年に観光振興のために掘削して72年から供給している鋸山金谷温泉で、泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉。源泉は21.2度なので加熱循環して使っていますが、肌触りのまろやかさに源泉の個性がしっかりと感じられます。
このかぢや旅館、今風の外観からは想像できませんが、実は安政元年の1854年創業と江戸時代末期から160年以上も営業している老舗旅館です。そして「かぢや」という屋号は、旅館を始める前は鍛冶屋だったことから来ているそうです。採石の道具を作ったり直したりしていたのでしょう。
鋸山とともに160年あまり。その間に鋸山は凝灰岩の産出地から観光地へと変貌を遂げ、かぢや旅館の主なお客さんも採石関係者から観光客へと変わりました。そんな歴史に思いをはせるのも、このハイキングの楽しみといえるでしょう。
かぢや旅館所在地 千葉県富津市金谷3887
電話番号 0439-69-2411
URL かぢや旅館のホームページ
(2018年2月15日公開)
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