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ニッポンがここちよい、健やかなる旅のススメ「第3回:蘇りの道『熊野古道』の芸術的な森林浴を体験する」

ニッポンがここちよい、健やかなる旅のススメ「第3回:蘇りの道『熊野古道』の芸術的な森林浴を体験する」

熊野古道のゴール、熊野本宮大社

世界の人々が集まる蘇りの道、「熊野古道」へ

「蘇りの道」と謳われる世界文化遺産「熊野古道」。上皇や貴族が神々に現世浄土を求め、祈りを捧げながら歩いた道である。ここは、世俗から離れ、神秘的ともいえる道を「歩く」ことによって癒され充たされる、ココロとカラダの健やかな旅が叶う健康ウォークの聖地なのだ。

平安時代、本宮・新宮・那智の熊野三山の信仰が高まり、性別に関わらず、上皇から庶民にいたるまで、「蟻の熊野詣」と例えられるほど、人々は切れ目なく熊野に参詣したと伝えられている。そして今や、ヨーロッパを中心として、世界各国からこの世界文化遺産「熊野古道」へ多くの人々が訪れる道になっている。その背景には、道として世界文化遺産に登録されているスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」への巡礼路と提携し、日本でいう「ご朱印」のようなスタンプラリーを実施していることもあげられるだろう。

その熊野古道のルートの中で、田辺市から熊野本宮に向かう「中辺路(なかへち)ルート」は、最も多くの参詣者が歩いたという。今回は、難行苦行の道のりを終えたどり着く最終目的地、熊野本宮大社までのコースのハイライトである「発心門王子~熊野本宮大社」までの健康ウォークを中心に紹介していこう。

健やかなる旅を演出する熊野メソッドがある

「熊野古道健康ウォーキング」とは、熊野の気候や地形を利用して、健康増進を促すウォーキングのこと。そして、その癒しの旅を安心・安全に導いてくれるのは、歴史・文化から、草花、運動、健康の学習や応急手当まで指導を受けている「熊野セラピスト」と呼ばれるインストラクター。

熊野古道健康ウォーキングは、ドイツで親しまれている気候療法に基づき、熊野古道の歴史・自然・文化についてふれながら、歩くペース、ストレッチ、休憩や水分補給、食事内容のタイミングなどがきっちり計算されプログラム開発されている。今この熊野メソッドは、全国各地の健康×観光まちづくりを推進している市町村から注目を浴びているのだ。

このウォーキングツアーを主催しているのは、「NPO法人熊野で健康ラボ」。その代表を務めているのが、日本のヘルスツーリズムの第一人者であり、伝道師である木下藤寿氏である。その木下氏の導きによる、健やかなる熊野古道の旅へいよいよ出発しよう。

熊野古道のハイライトを熊野セラピストと歩き、芸術的な森林浴を楽しむ

「NPO法人熊野で健康ラボ」がウォーキングツアーを主催している

早速、世界遺産熊野本宮館にてオリエンテーション

朝9時。世界遺産熊野本宮館にて、血圧・脈拍などの健康チェック、コースの概略、気候療法について、そして歩くルールなどオリエンテーションを受講する。約7Kmを、昼食・休憩を入れながら4時間で歩くコースだ。高低差も200m程度。ほどよい運動としてぴったりのコースである。

オリエンテーション終了後、バスに乗り込み発心門王子の停留場へ向かう。「王子」とは熊野権現が分社され、信仰の道をつなぐ神社。休憩場所ともなっていたところである。熊野古道には九十九王子があり、参拝者の道標となっている。また「発心門」とは、「仏の道に帰依する心を発する入り口(門)」 という意味。スタート地点から霊験あらたかである。

準備体操で軽くストレッチ

発心門王子スタートで準備体操

赤が印象的な発心門王子で世俗にまみれた自らを清め、旅の安全を祈願して、軽くストレッチをして出発。「ブウォー♪」という木下氏のほら貝の低音が出発の合図。本宮大社の神域へと森林浴をしながら、ほどよいスピード感で足を進めていく。途中、道標がゴールまでの距離を教えてくれる。参拝者の視点に立ち、景観にやさしい整備がされている。

交互に訪れるスギ、ヒノキなど針葉樹の森のおごそかな雰囲気と、山間に佇む集落の風景にココロが和やかになっていく。ほどなくして水呑王子へと到着する。ここでは、ちょっと歩いてほてったカラダを冷水刺激。腕にかけると気持ちがスーとしていくのがわかる。

楽しく森林浴をしながら歩く熊野古道

楽しく森林浴をしながら歩く熊野古道

そして、いよいよ山道に入っていく。しばらくすると、間伐材3本でできた森のベットが現れる。私が熊野古道ウォーキングの中で最も好きな場所。熊野セラピストから大きな布をいただき、ベットに臥せる。横臥外気浴といわれる療法である。横になると木々がまっすぐに伸び、古道に流れる風にゆらゆらと揺れているのがわかる。こんな視点で森をみることはまずない。しばらくするとセラピストの吹く篠笛が森の中に響く。木洩れ日を浴びながら、目を閉じるとスーッと眠りに誘導されていく。

間伐材3本でできた森のベットで横臥外気浴

木々がまっすぐに伸び古道に流れる風にゆらゆらと揺れている

熊野古道でここちよい横臥外気浴

20分程経ったであろうか。ほら貝の音で目覚める。そしてタオルストレッチをして、再び森林浴を楽しみ、景観スポットや無人販売所でワイワイやりながら、里山集落と茶畑を抜けると、やがて伏拝王子にお昼に到着。

地元のおかあちゃんの笑顔と、地産地消の食材を使った熊野古道弁当と味噌汁が旅人を待っている。休憩所があり、直売所にもなっているのだ。そして湯の峰温泉で入れたコーヒーにゆっくりと舌鼓。

地産地消の食材を使った熊野古道弁当と味噌汁

地元民宿のおかあさんたちが作る地産地消の熊野古道弁当

昼食後、ゆっくり休んでから伏拝王子を参拝。「ここで初めて熊野本宮大社の姿が目に入るため、伏して拝んだことから『伏拝王子』となったと伝えられています」とセラピスト。そして、出発前に高野山へ続く果無山脈を望みながらガードレールをストレッチバーとして、全員でカシャ!本宮大社をめざす。

ガードレールをストレッチバーに

ストレッチバー(ガードレール)を利用して疲れを残さない

伏拝王子から少し山道を歩く。「木の根っこ道でどこに足を置くか?考えながら歩くことは脳活性につながりますよ」と木下氏。

木の根っこ道でどこに足を置くか?考えながら歩く

熊野古道らしい道を歩きながら脳活性

木洩れ日でリラックス

木洩れ日でリラックス

ほどよく歩くと「三軒茶屋跡」に到着。高野山から続く熊野古道小辺路との合流点で、ここから先は江戸時代につくられた石段・石畳が残り、まさに熊野古道の趣たっぷり。「登りは筋肉に疲労を残さない39ペースで(=39秒歩いたら一休み)で!」と絶妙のタイミングで声をかける木下氏。「ここでは江戸時代にタイムスリップ!その時代に使われていない言葉は使わないで…」など、楽しい演出が繰り広げられる。古道から少しそれて高台に上っていくと、大斎原と大鳥居を望む、いわば現代版の「伏拝」ポイントである「ちょっとよりみち展望台」が。ベンチに座ってしばし座観、風景に自分が溶け込んでいくようで、リラックス効果は抜群。

大斎原と大鳥居を望むちょっとよりみち展望台

遠くに大斎原の鳥居が見えるこのベンチに座ってしばし佇む

熊野古道らしい道をさらにゆっくりと下っていく。ほどよいペースで歩いてきたので、ここちよい疲れである。本宮大社に参拝する前に、祓い清める潔斎所「祓殿王子」にお参りし、いよいよゴールである熊野本宮大社に参拝!

熊野古道のゴール、熊野本宮大社

熊野古道のゴールは熊野本宮。神妙な面持ちで健康祈願

熊野古道“Shirinyoku” が世界共通語へ!?

木下氏が語る。「先日取材に訪れたイギリス人ジャーナリストが熊野古道健康ウォーキングを体験し、この森林浴はアートだ! "shinrinyoku”という言葉で紹介してくれました。世界共通語になるといいですね」。まさにそれを実感した熊野古道であった。

熊野古道健康ウォーキング

所在地  和歌山県田辺市本宮町本宮100番地の1

アクセス 電車:JR新宮駅よりバスで約1時間20分/JR紀伊田辺駅よりバスで1時間〜1時間15分

車:紀勢自動車道・上富田ICより約57Km

ホームページ

参拝の後には、3つの個性的な温泉からなる「熊野本宮温泉郷」へ

熊野本宮大社を12時に、反時計回りに3つの温泉が点在する「熊野本宮温泉郷」が有名。熊野詣と密接な関係を持ち、日本最古の湯としても知られる「湯の峰温泉」は開湯約1800年といわれています。また、クアハウスやアウトドア施設を備える「渡瀬温泉」、川底に70度以上の温泉が湧く全国的にも珍しい「川湯温泉」と、それぞれ異なる特徴があり、毎年多くの人が訪れる歴史ある温泉郷です。

(2018年4月10日公開)

木谷 敏雄
1963年生。株式会社ジェイ・ファイン代表取締役、株式会社マインドシェア 顧問。 「ニッポンをここちよく」をテーマにヒトとシゲン、ヒトとヒト、ヒトとマチをつなげる感動請負人として、「観光地域づくり」「観光コンテンツ開発」 「ツーリズム人材育成」 「地域ブランド化事業」など地域活性化や地方創生事業に携わる。青森県をはじめ、各地域での観光アドバイザーを歴任。最近では、ヘルスツーリズム事業開発に力を注ぎ、(一社)南房総健康ラボの代表理事も務める。