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【連載】ダムは招くよ「第5回 建設中のダムを見に行こう」

【連載】ダムは招くよ「第5回 建設中のダムを見に行こう」

こんにちは、ダムマニア&ダムライターの宮島咲です。

日本にはダムが約2,700基あると言われていますが、こんなにたくさんあっても、まだ造らなければならないダムがあるんです。水不足が頻発する地域や、洪水が多発する地域など、国内にはまだたくさんあります。

ダムは一時的に自然を壊してしまうものですが、そのダムの近隣や下流に住む人々は、その川の水を飲んだり、その川が溢れてしまうことを恐れながら生活しています。より安泰な暮らしにするために、ダムは存在するのです。本当は、自然を壊さない様に生きてゆければ良いのですが。

ということで、今回は、現在建設中のダムをご紹介しようと思います。

利根川水系吾妻川(あがつまがわ)

関東の大河川「利根川」の支流にある吾妻川という河川は、キャベツの産地で有名な群馬県嬬恋村と長野県の県境にある鳥居峠を水源としています。群馬県内を約76km流れ下り、伊香保温泉で有名な渋川市で利根川に合流します。今、この吾妻川に巨大なダムが建設されているんです。

2019年度完成予定の八ッ場ダムです。

吾妻川に建設中の八ッ場ダム。2019年度完成予定

その名は八ッ場(やんば)ダム。

国土交通省が建設を進めている多目的ダムです。遠く離れた東京都や千葉県をも含む、関東平野を洪水から守ったり、飲み水として使用する水を確保するためのダムです。2016年夏、関東は取水制限がおこなわれるほどの水不足に陥りましたが、もし、この八ッ場ダムが完成していたら、その心配は無かったかもしれないと言われています。

八ッ場ダムに行ってみよう

八ッ場ダム建設現場へは、車でアクセスすることをおすすめします。関越自動車道渋川伊香保ICより、国道17号線と国道353号線などを使って、吾妻川の上流に向かって車を走らせます。途中、第二吾妻川橋梁というJR吾妻線の橋があります。コンクリート製の橋で、かなり珍しい形をしているので一見の価値があります。

第二吾妻川橋梁です。

コンクリートの主張が激しい第二吾妻川橋梁

第二吾妻川橋梁から4.5kmほど進むと、八ッ場ダムの建設現場を見下ろせる「やんば見放台」に到着します。一般的なダム建設現場は、だいぶ手前から立入禁止となっており、建設している様子を見ることができませんが、このダムは違います。

わざわざ展望台を造り、ダム建設の様子を誰もが見学できるようにしているのです。

やんば見放台は24時間営業です。

24時間営業のやんば見放台

この展望台は24時間営業で、昼夜問わず多くの人が訪れています。特に、休日の昼間は激混みで、一番よく見えるお立ち台は長蛇の列となります。また、ダム建設工事は夜もおこなわれており、昼間とは全く違った表情を見せます。ライトアップされたダム建設現場は、幻想的で美しいですよ。

夜の八ッ場ダム建設現場の様子です。

夜の八ッ場ダム建設現場

ダムグルメ

近隣ある「道の駅 八ッ場ふるさと館」では、地元の食材を使った料理や、ダムグルメを味わうことができます。まず、絶対に召し上がってほしいのは「八ッ場ダムカレー」です。

八ッ場ダムカレーです。

八ッ場ダムカレー

一般的なダムカレーは、ごはんがダム、カレールーが貯水池をあらわしていますが、八ッ場ダムカレーはちょっと違います。ダム本体は陶器でできており、ごはんは下流側に盛られています。この陶器は道の駅で販売されており、ダム好きのかたのお土産として喜ばれています。

また、「八ッ場ダムカレーパン」もおすすめです。チーズで造られた八ッ場ダムが、カレーを堰き止めている可愛らしいカレーパンです。お土産におすすめですよ。

八ッ場ダムカレーパンです。

お土産にしたい八ッ場ダムカレーパン

近隣のダムにもお立ち寄り

八ッ場ダムの近隣にはいくつかダムがあります。ぜひ足を延ばしてみてください。

■品木(しなき)ダム

品木ダムです。

中和を目的に持つ品木ダム

品木ダムは、ちょっと変わった目的で造られたダムです。品木ダムがある湯川は、有名な温泉地である草津温泉を流れる川です。草津温泉は強酸性の湯で知られている通り、この河川も強酸性なのです。pH2.0という強酸性の湯川は「死の川」と呼ばれ、魚も住めないし、鉄もすぐに腐食、コンクリートもあっという間に劣化させてしまうという、劣悪な環境の河川なのです。

これを改善するために造られたのが品木ダムです。品木ダムの上流で石灰を投入し河川を中和。その過程で、硫酸カルシウムなどの固形物ができてしまうので、これをダムに貯めてしまおうというのです。こうすることによって、湯川は魚が住める川になり、鉄やコンクリート製の橋を造ることができるようになりました。

■四万川(しまがわ)ダム

四万川ダムは城壁のデザインをしています。

城壁のデザインをした四万川ダム

四万川ダムは、名湯「四万温泉」のそばにあるダムです。ちょっと変わったデザインなので、多くのダム愛好家から注目を集めています。通常、ダムの下流面は、なんら変哲のないコンクリートでできていますが、このダムは、この部分がお城の城壁の様になっているのです。

また、このダムが形成する貯水池(奥四万湖)は、真っ青で非常に美しく、時を忘れて眺めてしまうほどです。

■中之条(なかのじょう)ダム

中之条ダムは貴重な型式が用いられています。

貴重な型式の中之条ダム

中之条ダムは、四万川ダムに行く途中にあるダムです。日本に52基しかないアーチ式コンクリートという型式のダムなので、一見の価値があります。

あの有名な、富山県の黒部ダムと同じ型式ですが、このダムはとてもコンパクトで可愛らしいダムです。黒部ダムに行かれたことがあるかたには、ぜひ見比べていただきたいダムです。

川沿いに有名な温泉地がそろっています。

ということで、今回は吾妻川に建設中のダムや、既存のダムたちを紹介させていただきました。この河川沿いには、草津温泉や四万温泉、伊香保温泉など、有名な温泉地がいくつもあります。

でも、ぜひ泊まっていただきたいのは川原湯(かわらゆ)温泉です。川原湯温泉は、八ッ場ダム建設のために移転を余儀なくされた温泉なのです。もし、読者の皆様が関東平野にお住まいで、利根川の恩恵にあずかっているとしたら、私たちの水と安全を守るために協力してくれた川原湯温泉に泊まって下さい。先祖代々の土地を、下流に住む人々のために譲ってくれた地元の方々が喜ぶことでしょう。

(2018年6月2日公開)

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宮島 咲
1972年、東京都生まれ。日本ダム協会認定元ダムマイスター、東京・本所吾妻橋の老舗割烹料理店「割烹三州家」5代目兼ダム事業部長。 脱サラした28歳頃からダムめぐりを始め、関東地方を中心に700基ほどのダムを訪問、国内のダム約2700基の制覇を生涯の目標としている。2002年開設したウェブサイト「ダムマニア」でダム関係者に注目され、ダム工学会や日本ダム協会主催の講演などのほかテレビやラジオにも多数出演。 著作に「ダムマニア(オーム社)」や「ダムカード大全集(スモール出版)」などがある。本業の料理店でも各型式のダムを模したダムカレーを提供。群馬県みなかみ町や、愛知県豊根村の町おこしにダムカレーが導入されるなど、 さまざまな角度からダムや水源地をプロモーションする事業を展開し、ダムへの理解促進とダムファンの拡大に日々尽力している。 ●「ダムマニア」http://dammania.net/