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【連載】ダムは招くよ「第4回 日本で二番目に大きいダムは?」

【連載】ダムは招くよ「第4回 日本で二番目に大きいダムは?」

こんにちは、ダムマニア&ダムライターの宮島咲です。

ダムの記事で第4回まで連載させていただきましたが、多分、日本で一番有名だと思われるダムを紹介していませんでしたね。もったいぶって紹介しなかったわけではなく、紹介するにはまだ時期尚早だったからです。ダム見学にもシーズンがあり、冬場は適していません。

なぜなら、多くのダムは山奥にあり、積雪の影響で近隣の道路が通行止めだったりするからです。この季節になり、雪が解けるとダム巡りのシーズンの幕開けです。道路が開通するだけではなく、融雪水の影響で川の水が増し、ダムが放流する可能性が大きくなります。ダムを見に行ったとき、できれば放流していてほしいですからね。

日本一大きいダム「黒部ダム」

多分、知らない人はほとんどいないと思われる富山県にある黒部ダムですが、このダムが日本一大きいダムであるということは知らない人も多いかと思います。

黒部ダム

国内ナンバーワンの高さを誇る黒部ダム

「大きい」という表現を使ってしまいましたが、ダムの大きさには色々あります。高さ(堤高)や長さ(堤頂長)、堤体積と呼ばれるダムの体積や、ダム湖の貯水量など、一概に大きいダムと言っても様々な基準があります。今回ご紹介する黒部ダムは、高さ(堤高)が日本一のダムなのです。

黒部ダムは関西電力が所有する発電専用ダムで、1963年に完成したアーチ式コンクリートダムです。

その高さは186mもあり、他のダムの追従を許さない高さとなっています。ダム湖から最大72㎥/sの水を取水し、下流にある黒部川第四発電所まで導水管で運ばれ、33万5000kWの電気を生み出しています。この電気は主に関西方面に運ばれ、関西の人々の暮らしを支えています。富山県で作られた電気が関西で使用されるって、なんだか面白いですよね。

黒部ダムへ行ってみよう

ダム巡りをする場合、通常は車が無いとつらいですが、黒部ダムの場合は車が無くても大丈夫です。電車利用の場合、JR信濃大町駅から扇沢駅行きのバスに乗りましょう。1時間に1本程度運行しており、40分ほどで扇沢駅に到着します。なお、車の場合は直接扇沢駅に向かってください。

トロリーバス

扇沢と黒部ダムを結ぶトロリーバス

扇沢駅からはトロリーバスを利用します。黒部ダムは自家用車では行けない変わったダムなのです。トロリーバスとは、架線から電気を受電して走るバスのことで、日本ではここと、この隣にある立山トンネルトロリーバスの2本しか運行していません。しかしながら、このトロリーバス、今年で運行を終えてしまい、来年からは電気バスに変更される予定です。ですので、このトロリーバスに乗れる機会は今年が最後ということになります。

トロリーバスに乗り込むと、全長5.4kmの関電トンネルをひた走ります。関電トンネルは、石原裕次郎さん主演の映画「黒部の太陽」のモチーフとなったトンネルとして有名です。このトンネル工事は難工事だったことで有名で、掘っている途中、大量の水が噴き出してしまいました。破砕帯(はさいたい)と呼ばれるもろい地層に貯まった水が、トンネル内に流れ込んでしまったという訳です。この破砕帯、トロリーバスからも見ることができるので、目を凝らして車窓を眺めていてください。

破砕帯

関電トンネルの破砕帯(写真:株式会社関電アメニックス)

トロリーバスの終点、黒部ダム駅からしばらくトンネル内を歩くと、目の前に巨大な黒部ダムが突然現れます。天端(ダムの上)をゆっくり散歩するのもよし、2つの展望台からダムを眺めるのもよし。また、天端を渡り左に曲がると遊覧船乗り場に到着します。遊覧船からダムの上流部を眺めて見るのもよいかもしれません。

遊覧船「ガルべ」

黒部湖の遊覧船「ガルべ」(写真:PIXTA)

日本で2番目に高いダム「高瀬ダム」

黒部ダムを楽しんだ後は、ぜひ、すぐ隣にある高瀬ダムに訪れてみましょう。

高瀬ダムは堤高176mのロックフィルダムで、日本で2番目の高さを誇るダムです。

日本で1番高い黒部ダムの隣にありながら、その存在はあまり知られていない、とっても可哀想なダムなのです。

高瀬ダム

堤高国内第2位の高瀬ダム

しかし、高瀬ダムへは車で行くことはできません。途中にある七倉ダムまで車で行き、そこから先は徒歩かタクシーを利用します。その距離は約5.3kmで、徒歩の場合90分ほどかかる距離なので、タクシーを利用することをおすすめします。

高瀬ダムは東京電力が所有する発電専用ダムです。直下にある七倉ダムと揚水発電をおこなっており、原子力発電所1基分に相当する、最大128万kWの電気を生み出しています。

発電時は高瀬ダムの水を新高瀬川発電所に送り込み発電。発電を終えた水は、七倉ダムに貯められます。そして、火力発電所などで発電された電気が余る夜間は発電機を逆回転させ、七倉ダムの水を高瀬ダムに汲み上げるのです。この仕組みを揚水発電といい、巨大な蓄電池の役割を果たしています。ちなみに、揚水発電施設は日本には50ヶ所ほどしかありません。

ダムの高さを体感できる「七倉ダム」

高瀬ダムの見学を終えたら、ぜひ、直下の七倉ダムにも行ってみましょう。七倉ダムは堤高125mのロックフィルダムで東京電力が所有する発電専用ダムです。堤体直下に大きな駐車場があるのでこちらに車を停めるとよいでしょう。

七倉ダム

ロックフィル型式の七倉ダム。堤高125mなので高瀬ダムより51m低い

駐車場から堤体を眺めると、右側に巨大なコンクリート製の滑り台が見えます。これはダムの水が満水になった時に使用する設備で、余水吐または洪水吐と呼ばれています。巨大な発電専用ダムの場合、基本的に余水吐はあまり使用されず、この部分から放流することは滅多にありません。なぜなら、ここから水を下流へ放流するよりも、発電機を通して放流した方が電気を生み出すことができるので、経済的に優れているからです。ということで、余水吐から放流している場面に出くわしたら超ラッキーだと思ってください。

余水吐

コンクリートの部分が余水吐。ダムが溢れそうになった時のみ使用される

さてこのダム、余水吐の隣にひっそりと階段が設置されています。立入禁止とは特に書かれていません。ということで、ぜひともこの階段を登ってみましょう。堤高125mの高さを、身を持って実感できる絶好のチャンスです!

ダム脇の階段

余水吐導流部のすぐ脇にある階段。身をもってダムの高さを体験できる貴重な施設

階段の昇り降りで疲れた体は大町温泉で癒そう

今回は国内ナンバーワン・ナンバーツーの高さを誇るダムをご紹介させていただきました。

同じ地区にトップツーのダムがあるというのは、偶然なのか必然なのか定かではありませんが、ダム巡りをする者にとっては、とても魅力的な地域であるということは間違いありません。

大町温泉郷

扇沢へのアクセス便利な大町温泉郷(写真:PIXTA)

また、今回ご紹介したダムのほかにも、大町ダムという魅力的なダムもあります。さらにこの地区は、黒部ダムカレーや七倉ダムカレーなどが販売されており、味覚でもダムを楽しむことができます。この地区のダム巡りにおすすめの宿は大町温泉郷です。125mの階段昇降や、ダム巡りで疲れた体を大町温泉で癒してくださいね。

黒部、大町周辺の地図

(2018年5月5日公開)

大町温泉郷の宿情報はこちら

宮島 咲
1972年、東京都生まれ。日本ダム協会認定元ダムマイスター、東京・本所吾妻橋の老舗割烹料理店「割烹三州家」5代目兼ダム事業部長。 脱サラした28歳頃からダムめぐりを始め、関東地方を中心に700基ほどのダムを訪問、国内のダム約2700基の制覇を生涯の目標としている。2002年開設したウェブサイト「ダムマニア」でダム関係者に注目され、ダム工学会や日本ダム協会主催の講演などのほかテレビやラジオにも多数出演。 著作に「ダムマニア(オーム社)」や「ダムカード大全集(スモール出版)」などがある。本業の料理店でも各型式のダムを模したダムカレーを提供。群馬県みなかみ町や、愛知県豊根村の町おこしにダムカレーが導入されるなど、 さまざまな角度からダムや水源地をプロモーションする事業を展開し、ダムへの理解促進とダムファンの拡大に日々尽力している。 ●「ダムマニア」http://dammania.net/